「みんなは自分のことを変わり者だと思ってるみたいだけど、
おれは物事をシンプルにしたいだけなんだ 」
とは、トロント・ブルージェイズの投手ダニエル・ノリスの言葉。
彼は誰もが憧れるメジャーリーガーでありながら、
“シャギー”と名付けた1978年型フォルクスワーゲンのキャンパーヴァンで生活する。
ヴァンの中には寝台と寝袋、そして一本のサーフボードとケルアックの小説。
それだけで彼のシンプルな哲学が見てとれるようだ。
選手が集まるロッカールームには、無料のコーヒースタンドが設置されている。
しかしながら、ノリスは”シャギー”の後部に座り、ヒーターで暖めたコーヒーを選ぶ。
チームメイトには、
「ただで飲めるコーヒーがあるのにおかしいと思わないか?」
と言われるが、ノリスは平然と答える。
「自分にはこっちのほうが合っているんだ」
そこに見てとれるのは”自由な精神”だけでなく”哲学的な思想”だ。
根っこには哲学があるからこそブレない自分でいられるのだろう。
ポータブルストーブで焼いた卵を食べながら答える。
「みんなに変わり者と思われてもこの生活を変えるつもりはないよ。
素晴らしいシーズンを過ごすには、
ハッピーでバランスのとれた状態でいること。
これが唯一の方法なんだ。
型破りかもしれないけど、人生を健やかに過ごすには冒険も必要さ 」
オフシーズンにはキャンパーヴァンで遠出をし、
サーフィンやロッククライミングに明け暮れるライフスタイル。
「心の中に贅沢なものは必要ないと決めているんだ。
自分の人生は本当に贅沢なものだと思っている。
オーシャンビューのビーチに住み、暖かい食事と濃いフレンチコーヒーがあるからね」
彼が、ふとした時に想いを綴るジャーナル(日記帳)には、こう記されている。
“親切でいること。思いやりを持つこと。他者を愛し、幸せでいること。とても単純なことだ”
アメリカ人のサーファーのなかには、
キャンパーヴァンで生活している人など当たり前のようにいる。
ぼくの友人には古い船を買い取って、
ベイで水上暮らしをしているヒッピーサーファーもいる。
そんな彼はどこに行くにも裸足だった。
そんな生き方だからといって、
彼らは社会性がないわけでもなく、
世間とも周囲の人ともしっかり同調しながら生きている。
人とちょっと違う点は、
世の中でいう”当たり前の生き方”を選んでいないだけ。
それだけの違いだが、
なんとも個性的で興味深く、
いつも活き活きと輝いている人が多い。
そして、どんな環境にいようとも自分を見失うことがない。
一方で、世の中には、
自分に見合わないという理由だけで相手の個性を奪おうとする人がいる。
ルールの「押し付け」で自由を奪おうとする人がいる。
その悪しきパワーに屈して、個性や自由を奪われて、
最後には情熱さえも奪われてしまった人も見てきた。
しかし、往々にして”押し付けた側”はその責任を取ることはない。
そういう人間に限って、ただただ相手のせいにするだけなのだ。
かのガンジーは、
“自由であることこそ幸福である”といった。
「幸福とは、考えていること、発言していること、
行動していることが調和している状態である」と。
幸福で健やかに生きるには、
心と身体のバランスのとれた状態が必要である。
調和した生き方が、日々を力強く生きるパワーや情熱を生む。
個性的に、自由に生きる人は知っている・・・、
「自分らしく生きること」こそ心身の調和を生むことを。
前述したダニエル・ノリスの住居兼ヴァン、
そこは彼が精神を整える場所でもあるようだ。
そのキャンパーヴァンの内壁には、
『Nonconformist(体制に従わない人)』と書かれているという。
世界を変えるパワーを発揮する人は、
誰かが決めた体制などに無意味に従わず、
枠にとらわれない発想と情熱を持って生きる人なのかもしれない。
参考記事:
“THE MAN IN THE VAN” by ESPN SPORTS