「その場所が人を呼ぶ」そんなことがあるのだろうか?
ある飲み屋で”隣りに座った男”が、
「俺は今ペルーに呼ばれてる気がする・・・」そんな言葉を発した。
腕に鳥のタトゥーをした男の言葉に驚かされた。
折しもペルー出身の友人に誘われて、ペルー行きを考えているところだったからだ。
このタイミングに何かを感じ、おれは即座にペルー行きを決めた。
ペルー人の友人はプロサーファーで帰省がてらの撮影旅となった。
自分にとってははじめて訪れるペルー。
うつくしい波を求めて、期待をもってペルーの大地を踏んだ。
たくさんの良い波ともめぐりあい、コンテスト撮影など仕事としてのパートもこなしていた。
そんな日々に、ふとした感情がわき起こった。
それは旅立つ前に、飲み屋で”隣りに座った男”の言葉だった。
「俺は今ペルーに呼ばれている気がするんだ。
インカの遺跡やマチュピチュを巡りたい。
時間ができたらいつか旅しようと思っているよ」
海と撮影の日々を過ごす中で、その言葉が胸に飛来した。
ペルートリップのために2週間ほどの時間をとっていたので、
急遽、インカや文化遺跡をまわる旅へと予定を変更した。
そのことを友人に告げると、不服な顔をされてしまったが、
またいつ来られるか分からない場所、ロードトリップをしなきゃ損!!
ペルーは南北にとても広い国で、バスでの旅が一般的だった。
まずはペルー南部の古都クスコに向かう。
町から町へとバスを乗り継ぐこと30時間もの長旅だ。
長いバス移動の中で、地元の人や日本からのバックパッカーなど、
いろいろな人がいて、これぞロードトリップの醍醐味を味わう。
そんな旅には普段出会わない楽しい巡り逢いがあったりする。
インカ帝国、最大の都市クスコ。
光と闇につつまれたうつくしい街。
風景との出会いは、まさにその文化との出会いなのだと実感した。
高度な古代文化は、西欧の新しい文化に駆逐され、
個性を失っていくように、世界の歴史は日夜、塗り替えられている。
その中でも、人はたくましく生きていく。
そんなことを思いつつ、ペルーの地を旅していた。
素直さを失わずに生きる国民性に、気高きインカの誇りがあったのだろう。
文化が発展することで色褪せていく、人それぞれの個性。
一方で脈々とつづく人間としてのたくましさ。
インカの大地を旅することで、ぼくは言葉にはできない大きな存在を感じていた。
不確かな人の一生のなかで、頼るべきものを持つ強さ。
「その場所が人を呼ぶ」
ぼくはこの時、ペルーという土地に呼ばれていたのだろうか。
忙しい日々を過ごす毎日でも、旅した思い出の土地が語りかけてくることがある。
「思いわずらうな、今この瞬間を楽しめ・・・」
日々の仕事があり、養わなければいけない家族をもち、いち社会人として走り出した今、
またこのような旅をするには、相当なエネルギーとパワーが必要となる。
そんな日々のなかでも、旅先で抱いたあの想いを感じられる時間を持つことができる。
「Enjoy the all moment 」(すべての瞬間を楽しむこと)
この言葉が俺の人生のスパイスになっている。
もはや10年前のマチュピチュの一枚、
この写真を見る度にあのとき感じた山風を思い出す。
それは、いつまでも心に自由をもたらす「風の記憶」でもある。